イエスは荒れ野の中を霊によって引き回され、40日間、悪魔からの誘惑を受けます。「引き回される」ということは、イエスが神の意志に従って導かれ、行動していったことを意味します。舞台となるのは荒れ野。そこは危険に満ち、無味乾燥は場所です。誰も立ち寄りたくないような場所ではないでしょうか。イエスはそんな場所で40日間、誘惑を受けます。
「40」というと、旧約聖書の中で40年間、イスラエルの民が荒れ野を旅し、種々の誘惑にも陥った出来事を思い起こすことができます。この誘惑は、主による人々への試みや誘惑に使われるものです(出16・4、17・2、申8・2、詩編95・9)。その体験によって、イスラエルの民は主の御旨を知ることができました。
さて2009年12月1日、生まれて始めて入院し、翌日、内視鏡で2センチほどの胃のポリープ切除手術を受けました。手術の日は朝から一日中絶食。また午前9時には24時間にわたる栄養剤が入った点滴が始まり、10時過ぎに寝台車で病室から手術室に運ばれ、手術が始まりました。内視鏡による15分程度の手術とはいえ、緊張を要するものでした。手術後は安静の状態で、午後3時ごろからは少し歩けるようになり、ふだん読めない本などを読んだりしました。病室は6人部屋でしたが、プライバシー保護のためか各ベッドともカーテンで仕切られ、他の入院患者と話す機会はほとんどありませんでした。物音、寝息、看護師たちがせわしく働く音以外は何もない。人はいても全く会話がない孤独な世界の中で、荒れ野の状況に似たようなものを感じました。4日の朝、退院して修道院に戻り、昼食としてシスターが準備してくれたおかゆや柔らかい食べ物など、病院にはない温かさを久しぶりに感じました。荒れ野から解放されたような、そんな気分。
私たちの周辺にも、いろいろな荒れ野が存在するでしょうが、それは自分の生き方をしっかり見つめる機会にもなっています。