バジリカは古代ローマの建築様式の名称です。長方形の大広間の両側に十数本の柱の構造を持ち、裁判所や商業取引場などに使用されました。四世紀、キリスト教が公認されると、こうした建築様式の建物が教会として使われるようになりました。大勢の集会と宗教的な礼拝には格好の空間です。ローマの古代教会建築にバジリカ様式が多いのはこのためです。
カテドラルとは、「司教座」(カテドラ)のある教会という意味で、各地の司教座聖堂を指します。ドゥオーモ(英語のドーム)は、カテドラルのイタリア語読みです。イタリア各都市には立派なドゥオーモがあり、ミラノのドゥオーモやフィレンツェの花のドゥオーモなどは間違いなく司教座聖堂です。ミラノのカテドラルという言い方もありますが、やはりイタリア人はイタリア語で呼ぶ習慣を好みます。イタリア以外ではわざわざイタリア語を使う必要がありませんから、司教座のことをドゥオーモと呼ぶ習慣ができないだけです(ひょっとしたら、世界のどこかでその地の司教座聖堂をドゥオーモと呼んでいるかもしれませんが、実例を知りません)。
ところで、問題はカトリックの中心地、教皇のお膝元のローマです。教皇はローマ司教ですから、その司教座のあるサン・ピエトロ大聖堂はローマ・カテドラルかローマ・ドゥオーモと呼んでもよさそうですが、そうは呼びません。その理由は、ローマには司教座に匹敵するような、古代ローマ時代に建てられた聖母マリアや使徒たちを記念する由緒ある大聖堂が七つあるからです。サン・ジョバンニ・ラテラーノ、サンタ・マリア・マジョーレなどです。これらの中でサン・ピエトロだけを司教座と呼ぶには他の教会が立派すぎますので、これらの教会が共通して備え持つ建築様式バジリカが一般呼称として通用しています。先に挙げたミラノのドゥオーモをミラノのバジリカと呼ばないのは、特にバジリカという言葉に登場願わなくてもミラノは混乱しないからでしょう。
したがって、次のような原則を頭に入れておくといいかもしれません。全世界の司教座聖堂は例外なく、カテドラルと呼んでかまいません。イタリアの司教座聖堂は、カテドラルのイタリア語読みのドゥオーモを。そしてローマでは、司教座のサン・ピエトロを含めて七つの大聖堂に尊敬を払い、バジリカと呼ぶことに決めておく。この原則で、ほぼ例外なく区別できます。
回答者=川村信三神父