序)洗礼は新約聖書だけではなく、旧約聖書との関連でみていくと、とても興味深いものです。
1 旧約時代における洗礼の前表
*教会は復活徹夜祭の典礼で、洗礼水の祝福の時、洗礼の神秘の前表であった救いの歴史の重要な出来事を荘厳に記念します。
例えば、「秘跡のしるしを通して救いの恵みを与えてくださる全能の神よ、あなたは旧約の歴史の中で水によって洗礼の恵みを表してくださいました。」
*世界の初めから、この目立たない、しかし、素晴らしいものである水は、いのちと豊穣の泉となっています。聖書には、神の霊が水の「面を動いていた」と記されています。
「天地の初めに、あなたの霊は水の面を覆い、人を聖とする力を水にお与えになりました。」
*教会はノアの箱舟に、洗礼による救いの前表を見ました。この箱舟によって、「数人、すなわち8人だけが水の中を通って救われました。」(一ペト3・20)
*泉の水がいのちの象徴であるのに対し、海の水は死の象徴です。ですから、水は十字架の神秘の象徴となることができました。この象徴によって、洗礼がキリストの死にあずかるものだということが表現されています。特にイスラエルがエジプトでの奴隷状態から真に解放された紅海通過は、洗礼によって行われる救いを予告するものです。
2 キリストの洗礼
*旧約時代のすべての前表は、キリスト・イエスのうちに成就されます。キリストは自らヨルダン川で洗礼者ヨハネから洗礼を受けられた後、公生活をお始めになります。そして、復活後、イエスは使徒たちに次の使命をお与えになります。
「あなたがたは行って、すべての民を私の弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け、あなた方に命じておいたことをすべて守るように教えなさい。」(マタ28・19~20)
*キリストは過越によって、洗礼の泉をすべての人に開かれたのです。キリストはエルサレムでの受難を、ご自分が受けなければならない「洗礼」と呼ばれました。十字架につけられたイエスの脇腹から流れ出た血と水は、新しいいのちの秘跡である洗礼と聖体の象徴です。そのときから、人は「水と霊とによって」生まれ、神の国に入ることが可能となったのです。(ヨハ3・5)
3 教会における洗礼
*聖霊降臨の日以来、教会は聖なる洗礼を授けてきました。聖ペトロは自分の説教によって心を動かされた多くの人々にこう宣言しました。
「悔い改めなさい。めいめい、イエス・キリストの名によって洗礼を受け、罪をゆるしていただきなさい。そうすれば、賜物として聖霊を受けます」(使徒2・38)。使徒たちとその協力者たちは、イエスを信じる者であれば、ユダヤ人、神を恐れる人々、異邦人のだれにでも洗礼を授けます。
*使徒聖パウロによれば、信じる者は洗礼によってキリストに死にあずかり、キリストと共に葬られ、復活します。(ロマ6・3~4)