洗礼の恵みを頂いている私たちは、血縁の身内と三位一体の神様を中心にした信仰の身内を持っています。その後者の身内は、教会共同体であったり、修道会の家族であったり、または、そのような枠にとらわれない【信仰】で繋がっている身内などがあるのではないでしょうか。私たちは、あらためて三位一体の神様を中心にした「私の身内」に目を止めてみるのもいいかもしれません。
きょうのみことばは、「イエス様の身内とは誰なのか」ということ、律法学者がイエス様の奇跡を「悪霊によって行っている」という場面です。きょうのみことばの前にイエス様は、群衆を癒し、「あなたは神の子です」という汚れた霊たちに、ご自分のことを言い広めないようにきびしく戒められています(マルコ3・1〜12参照)。そして、ご自分と行動を共にする12人の使徒を定められます。
このような出来事があってきょうのみことばをむかえるのです。きょうのみことばは、「さて、イエスが家に戻られると、また群衆が集まって来たので、一同は食事をする暇さえなかった」という一節で始まっています。イエス様が癒やされた人々、さらには、イエス様の噂を聞いて自分たちも癒してほしいと願う人々が、イエス様の所に集まって来たのでしょう。イエス様が戻られた【家】というのは、ナザレの【家】ではなく、カファルナウムにあるペトロとアンデレの【家】(マルコ1・29、マルコ9・33)だったようです。
私たちにとって【家】は、「ホッとする場所」、「気を休める場所」なのですが、イエス様の場合は、人々を癒す宣教活動の場所だったのです。そのように忙しく人々を癒しているイエス様の所に、身内の人たちは、イエス様のことを「彼は気が変になった」と言っている人の声を聞いて連れ戻そうとしにきます。イエス様を連れ戻そうとして来た身内の者は、12人の使徒たちがイエス様を取り囲み、さらに、彼らの所に大勢の群衆が集って来ている様子を目の当たりにするのです。ですから、イエス様の身内の者は、「彼は気が変になった」という言葉の現場を見て、改めてイエス様のことを心配したのではないでしょうか。
さて、イエス様の所に集って来た人たちの中には、癒しを求めて来た人たちだけではなく、イエス様のことをよく思わない人たちも来ます。彼らは、エルサレムから来た律法学者たちでした。彼らは、イエス様に対して「ベルゼブルに取り憑かれている」と言い、また「悪霊の頭によって悪霊を追い出している」と断定されます。
イエス様は、彼らの言葉を聞いてどのように思われたのでしょうか。イエス様は、食事をする暇もないほど人々のために働かれたのにも関わらず、身内の者が「彼は気が変になった」という言葉を聞いて連れ戻しに来て、さらに、律法学者たちからは、「ベルゼブルに取り憑かれている。悪霊の頭によって悪霊を追い出している。」と言われたのです。もし、私たちが脇目を降らず自分の仕事や研究、使命に邁進いているときに、周りからあらぬことを言われていることを想像してみるとイエス様のお気持ちを身近に感じるのではないでしょうか。一番の拠り所であった身内さえイエス様のことを理解できずにいたのです。さらに、宗教的な指導者である律法学者からは、「悪霊の頭によって悪霊を追い出している」とも断定されたのです。
イエス様は、「どうしてサタンがサタンを追い出すことができようか。もし国が仲間割れをするなら、その国は立ち行かない。……もしサタンが自分自身に逆らうなら、サタンは仲間割れし、立ち行くことはできず、かえって滅びてしまうであろう」と喩えをもって話されます。これらの喩えでは、「【国】や【家】という共同体を用いられ、また、その国や家の中で【仲間割れ】をすると、その共同体は【立ち行かなくなり】滅びてしまう」と言われます。このようなことは、私たちの身近な所でも起こっているのかもしれません。
共同体で【仲間割れ】をする時には、それぞれの自己主張によって、お互いの中での対立が起こります。両方とも「自分たちの意見が正しい」と主張し相手を攻撃します。ここには、愛がなく相手を受け入れようとしません。もし、謙遜な気持ちで相手のことを受け入れ、互いに歩み寄ることができたら【仲間割れ】にはならないでしょう。
さて、イエス様が律法学者たちに喩えを話しているときに、イエス様の母と兄弟たちが来て、外に立って、人をやってイエス様を呼ばせます。イエス様は、そんな彼らに対して「わたしの母、わたしの兄弟とは誰か」と言われ、「……神のみ旨を行う者は誰であれ、わたしの兄弟、わたしの姉妹、わたしの母である」と言われます。神のみ旨を行う人は、神の愛で包まれていていつも平安ですし、おん父の近くにいる状態で、パウロが言う【内なる人間】(2コリント4・16)なのです。私たちは、聖霊の助けを頂き、イエス様とともに、「おん父のみ旨」を行い、希望を持ってイエス様の【身内】になり続けることができたらいいですね。