「鳶に油揚げをさらわれる」ということわざがありますが、これは「自分が大切にしていたものを不意に、横から奪われ唖然とする様子」という意味です。このことは、物に限らずに、思いもあるのではないでしょうか。自分が大切にしていた思い、憧れなどを、他の人に気づかされたり、指摘されたりすることもあるのかもしれません。
きょうのみことばは東方の博士たちがお生まれになったイエス様を拝みにくる場面です。みことばは「さて、イエスが、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになったとき、東方の博士たちがエルサレムに来て、尋ねた、「お生まれになったユダヤ人の王は、どこにおられますか。わたしたちはその方の星が昇るのを見たので、拝みに来ました」と始まっています。
博士たちは、イスラエルの人たちからみると、異邦人であり、また彼らが蔑んでいる魔術師や占星術師とか、または、天文学者と言われる人たちでした。その博士たちが、ユダヤ人の王であるヘロデの所に「お生まれになったユダヤ人の王は、どこにおられますか」と尋ねたのです。イスラエルの民は、「何千年の昔からメシアが来て自分たちを救ってくださる」と待ち望んでいました。ですから、異邦人であり、さらにその中でも最も蔑んでいた占星術師が先に「お生まれになったユダヤ人の王」のことを気づいていたのですから、ユダヤ人にとっては「鳶に油揚げをさらわれる」というようなことと言ってもいいでしょう。
しかし、このことを聞いたヘロデ王は他のイスラエルの民とは少し違う反応でした。みことばは「これを聞いたヘロデ王はうろたえた。エルサレムの人々もみな同じであった」とありますが、エルサレムの人々というのは、ヘロデ王の側近であり何がしらの政治的な権力を持っていた人たちだったのでしょう。ですから、ヘロデ王以外の王が生まれるとなると自分たちの地位が危うくなると思っていたのではないでしょうか。特に、当のヘロデ王は、権力欲が強い上に、晩年は自分の王位を奪うものを次々に殺してしまうほどの猜疑心にかられていたようです。そのようなヘロデの所に博士たちは、「お生まれになったユダヤ人の王は、どこにおられますか」と尋ねたのでした。
ヘロデ王は、祭司長や民の律法学者たちをすべて集めて、メシアはどこに生まれるのかと問いただします。ヘロデ王には、特別な有識者がいたようですが、彼らは、肝心な「メシアが生まれた」ということを気づくことができなかったのです。彼らは、王に「ユダヤのベツレヘムです。預言者が次のように書き記しています。『ユダの地ベツレヘムよ、……わたしの民イスラエルを牧するからである』」と答えます。彼らは、祭司長であり、律法学者ですから聖書(旧約)には、精通していましたし、宗教的にも権威を持っていた人たちでした。しかし、彼らは「その方(メシア)の星」を気づくことができなかったのです。
ヘロデ王は、博士たちをベツレヘムに送り出すにあたって、「……見つけたら、わたしに知らせてくれ。わたしも拝みに行きたいから」と言います。ヘロデ王の思いは、博士たちが純粋に「拝む」(マタイ2・2)ということとは違い、幼いイエス様を殺そうと思っていたのでした(マタイ2・16〜18参照)。ここにヘロデ王の権威欲に固執する、恐ろしい心、政治的な闇の部分が現れていたのです。
博士たちは、そのようなヘロデ王の心を知ってか知らでか、ベツレヘムに向かって出かけていきます。すると、彼らがかつて昇るのを見たあの星が、彼らの先に立って進み、幼子のいる場所まで来て止まります。彼らは、占星術師ですから天体のことに敏感だったのでしょう。それで【あの星】に気づくことができ、幼子がいる場所で止まったのを見て【非常に喜び】ます。私たちにとって【星】とは、どのようなものでしょうか。もしかしたら、日常の忙しさ、または、娯楽に注意が行き、見逃しているかもしれません。
博士たちは、幼子が母マリアとともにおられるのを見て、ひれ伏して幼子を礼拝します。彼らは、東方でユダヤ人の王が生まれるという【星】に気づき、ユダヤ人たちに蔑まれていると知りながら、彼らにとって政治的にも宗教的にも危うい場所に足を運び、そして、ようやく彼らが待ち望んでいた【ユダヤ人の王】を探し求めたのでした。彼らの気持ちは、「非常に喜んだ」ということや「ひれ伏して幼子を拝んだ」ということからすべて表れているのではないでしょうか。
パウロは、「この神秘とは、福音がもたらされることによって、異邦人がキリスト・イエスに結ばれ」(エフェソ3・6)と伝えています。イエス様は、博士たちが「ひれ伏し礼拝する」ことによって、全世界にご自分の救いをもたらされたのです。まさに、私たちが「ユダヤ人の王(イエス様)」に出会うのは、【神秘】といってもいいでしょう。私たちは、博士たちのようにいつも「お生まれになったユダヤ人の王は、どこにおられますか」と尋ね「あの【星】」を探し求めることができたらいいですね。