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キリスト教知恵袋

聖パウロの時代の書物

 私たちにとって、書物と言えば印刷され、中央がとじられ、きれいに製本されているものですが、パウロの時代の書物は、手書きの巻物を意味しました。

 パウロの時代における書物の素材は、紙ではありません。紙はパウロが生まれた頃、中国で発明されていますが、パウロの世界に伝えられるのは八世紀頃です。パウロの時代に紙の役割を担っていたのは、パピルスと皮紙でした。

 パピルスはエジプトに自生する植物で、その茎を利用してつくります。英語のペーパー(paper)はパピルスが語源です。いっぽう皮紙は子羊や子山羊の皮をなめして作ります。皮紙の最も有名な生産地はペルガモン王国でした。英語の皮紙を意味するパーチメント(parchment)の語源はペルガモンです。

 パピルスは生産が容易で安価でしたが、耐久性に欠けました。いっぽう皮紙は高価ですが、耐久性に優れ、かつ両面に書くことができました。そのため旧約聖書を書き写すためには皮紙が用いられました。

 ところで巻物の聖書の場合、読みたい箇所をすぐに開くことができません。そこで巻物に代えて、現在の本型の聖書が発明されました。すなわち、皮紙を一定の大きさの四角形に切りそろえて重ね、それを二つ折りにして、折り目にそって縫いとじるのです。これだと読みたい箇所を簡単に開くことができました。このタイプの書物をコデックスと呼びますが、これが発明されたのは、一世紀の終わり頃と考えられています。したがって、パウロが用いた旧約聖書は皮紙の巻物型であったと言えます。

 ところで、パウロが手紙を書く場合、皮紙を用いたと考えられます。もう一度前号のパウロ像をご覧ください。彼が左手に持っているのは、おそらく皮紙です。同じ大きさに切りそろえられているようですが、決してコデックスのように縫いとじられてはいません。

 『テモテの第二の手紙』に次のように書かれています。「あなたが来る時には、私がトロアスのカルポの所に置いてきた外套を持って来てください。また書物、特に皮紙のものを持って来てください。」(4・13)

 福音宣教のために皮紙を利用したのは、パウロが世界で最初でした。

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