「音楽の父」と呼ばれるヨハン・セバスチアン・バッハ。オルガン曲や交響曲など、数多くの名曲を残しました。偉大な音楽家には宗教にちなんだ作品が多いのですが、バッハの場合でも宗教にからんだ作品が数多くあります。
彼の有名な作品の中に「マタイ受難曲」というのがあります。「マタイによる福音書」に登場するキリストの受難を題材にした受難曲で、レチタティーヴォ、アリア、コラールなどによって構成された作品です。初演は1727年4月11日にドイツのライプツィヒにある聖トマス教会で行われたと言われています。バッハの死後、この曲は忘れられていましたが、約100年後の1829年3月11日、メンデルスゾーンによってこの曲が上演され、バッハの再評価へとつながっていきます。最近では、いろいろなグループによって演奏されていますが、その中でもきれいなものは1958年に録音されたカール・リヒター指揮、ミュンヘン・バッハ管弦楽団による演奏がとても評価されています。
この曲の種々の場面が印象に残るのでしょうが、場面として54番目に出てくるコラール「いばらのかむり」(カトリック聖歌集の171番)はよく知られています。聖歌集にはバッハ作曲と記されていませんので、あまりそのことに気づきませんが…。
歌詞の中にも出てきますが、茨の冠をかぶせられ、苦しむイエスの姿がよく感じられるのではないでしょうか。十字架を担うキリストの苦しみが歌を通してよく伝わってきます。
朗読によってキリストの受難を味わい、苦しみを共にするのもよいのでしょうが、今年はちょっと趣向を変え、四旬節中にこの曲を聴き、音を通して伝わってくるキリストの苦しみを味わうのもよいのではないでしょうか。