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訳文の違いから聖書を味わい直す

第4回 機会のあるごとに、すべての人に、善を行いましょう――訳文の違いから聖書を味わい直す

聖書の「フランシスコ会聖書研究所訳」と「新共同訳」の訳文の違い

第4回 機会のあるごとに、すべての人に、善を行いましょう(ガラテヤ6・10)

「機会のあるごとに」

 このコラム「訳文の違いから聖書を味わい直す」では、多くの人にとって、より親しみがある福音書の箇所を取り上げながら、フランシスコ会聖書研究所訳と新共同訳の違いについて読み深めてきました。しかし、今回は、2022年の教皇フランシスコの四旬節メッセージが使徒パウロのガラテヤの教会への手紙6・9-10aをテーマとしていることから、この箇所を対比したいと思います。

 中央協議会の教皇メッセージ日本語訳は新共同訳聖書を引用しています。

たゆまず善を行いましょう。飽きずに励んでいれば、時が来て、実を刈り取ることになります。ですから、今、時のある間に、すべての人に対して、善を行いましょう」。

 これに対してフランシスコ会聖書研究所訳は次のとおり。

倦まず弛まず善を行いましょう。飽きずに励めば、時が来たとき、わたしたちは刈り取ることになります。ですから、機会のあるごとに、すべての人に、善を行いましょう」。

 今回は下線を引いた2ヵ所の訳文の違いについて考えてみましょう。

 教皇フランシスコは四旬節メッセージの中で、新共同訳で「時のある間に」と訳されている「時」に注目しています。ギリシア語原文で「カイロス」という語が用いられているからです。ギリシア語で「カイロス」とは、単なる時間の流れにおける均等な時ではなく、特別な時、重要な時、意味のある時を表すからです。この点を踏まえると、新共同訳よりもフランシスコ会聖書研究所訳が、今年の四旬節メッセージにはよりふさわしい訳と言えます。「機会のあるごとに」。聖書協会共同訳も新共同訳の不十分さを感じたのでしょうか。「機会のある度に」と訳しています。

 使徒パウロの勧めは、単に「時のある間に」とか、「機会が訪れれば」とかいう意味ではなく、まさに今がその「機会」、「特別な時」なのだから、という意味です。わたしたちは、善を行うための「特別な時」、「重要な時」を実感し、行動に移すよう招かれているのです。

 しかも、この「特別な時」は「刈り取りの時」(6・9)のことではありません。わたしたちが、今、「倦まず弛まず」「善を行う」、いわゆる「種蒔きの時」のことなのです。

「倦まず弛まず」

 しかし、わたしたちにとって現実のさまざまな困難の中で熱意を保ち、善を行い続けることは容易ではありません。だから、パウロは「たゆまず善を行いましょう。飽きずに励んでいれば……」(6・9)と招きます。

 わたしたちは、時代の流れとして、だんだんと難しい漢字の使用を避け、ひらがなを使うようになっています。聖書の訳文もその影響を受けています。それは、より多くの人に神のことばを伝えるためにすばらしいことであると同時に、ともすると漢字が視覚的に訴える意味の豊かさを捨ててしまうことにもつながります。

 わたしたちは、「たゆまず善を行いましょう」という呼びかけを聞いて、どのように受け止めるでしょうか。「たえることなく」、「継続的に」、「ずっと」という意味に理解する人も多いと思います。だから、フランシスコ会聖書研究所訳は、あえてここで漢字を用います。しかも強調してこれを訳します。「倦まず弛まず」。そう、「たゆまず」とは「弛まず」なのです。わたしたちは、現実を生きる中でどうしても「弛んで」しまう、「ゆるんで」しまうことがあります。「倦んで」しまうことがあるのです。それを踏まえたうえで、パウロはその中にあっても「倦まず弛まず」善を行い続けるよう呼びかけるのです。

 これこそが、使徒パウロの思い、教皇フランシスコの思いなのだとわたしは感じます。まさに今、世界の平和が揺らいでいるこの状況にあって、わたしたちがしばしば無力さを感じ、あきらめてしまいたくなる状況にあって、この使徒パウロの言葉、教皇フランシスコの訴えはわたしたちが強く心に刻むべき信仰の生き方を表していると思います。

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澤田豊成神父

聖パウロ修道会司祭。1965年、東京都目黒区生まれ。1996年、司祭叙階。教皇庁立グレゴリアン大学神学科修士課程で聖書神学を専攻、神学修士号取得。現在は編集をとおしての宣教に従事。東京カトリック神学院、聖アントニオ神学院講師。

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