(序)
ミサの初めに、「主イエス・キリストの恵み、神の愛、聖霊の交わり(二コリ13・13)がみなさんと共に」と祈ります。イエス・キリストについて、「恵み」が使われている。生活の中で、たくさんの恵みをいただいている。
1 恩恵とは何か?
神の恩恵(恩寵)とは、人間をイエス・キリストの救いにあずからせる神の恵みです。この恩恵は、神との特別な交わりと聖霊の働きを意味し、人間の本性と能力を越えているので、「超自然の恩恵」と呼ばれています。
パウロの信仰の根底に、常にイエス・キリストの自分に対する一方的な、恵みの行為が意識されており、それなくしては自己の存在理由はなく、また福音そのものもないということを的確に物語っています。
*パウロにとって恩恵は、キリストの恵み。
このことをよく表しているのは、パウロの言葉です。(エフェ2・4~8)
「神は憐みに満ちておわれ、わたしたちを愛してくださったその大いなる愛によって、咎(とが)のゆえに死んだ者であったわたしたちを、キリストとともに生かしてくださいました――あなた方が救われたのは、恵みによるのです――。そして、キリスト・イエスに結ばれてともに復活させ、天の者たちの間で、キリストとともに座を占めさせてくださいました。それは、キリスト・イエスに結ばれたわたしたちへの親愛の情から、ご自分のこの上ない豊かな恵みを、来るべき代(よ)にお示しになるためでした。実に、信仰によってあなた方が救われたのは、恵みによるのです。あなた方自身の力によるのではなく、それは神からの賜物です。」
2 区分(成聖の恩恵と助力の恩恵)
成聖の恩恵とは、人間を神の前に正しいものとし、神との親しい交わりに入らせ、神の子とし、神の生命にあずからせ、永遠の喜びを得る資格を与えます。なお成聖の恩恵を受けている人のうちには、父と子と聖霊が、特に親しくお住いになっておられます。
助力の恩恵とは、救いを得させるために、人間の力を照らし、強める神の助けです。この恩恵によって人間は信仰をいだき、心を改め、義人は聖性に進み、死ぬまで成聖の恩恵を保つことができます。人間は神の恩恵を受け入れ、それに従うようにしなければなりません。
助力の恩恵はいつも作用のための恵みであり、疑いなく作用すべきもののために助ける恵みです。
3 聖書の中での恩恵
パウロによれば、私たちはキリストの兄弟であり(ロマ8・29)、聖霊による神の子らであり(ロマ8・14~17)、聖霊のすみかであり(ロマ8・9)、キリストと共に神の無限な富の相続人である(ロマ8・17)。また咎(とが)のために死んだ者であったわたしたちを、キリストとともに生かしてくださいました。――あなた方が救われたのは、恵みによるのです。(エフェ2・5)、キリストの息吹としての聖霊を与えられ(一コリ6・17)、人をおびやかす悪の力から解放され(ロマ6・18)、キリストを通して父なる神の全き信頼をもって近づくことができる者とされた(エフェ2・18~19)。
ヨハネによれば、私たちはすでに今、永遠の生命を持っており(6・40~57)、父なる神と御子キリストとが一つであるように私たちも一つであり(17・20~26)、神が私たちのうちに留まり、私たちもまた神のうちにとどまっているのである。(14・23)。
4 神の恩恵の先行性
信仰に入る者は、神の恩恵が彼ら自身の功績によるものであると考えてはならない。すべてのものは完全に、神の惜しみない、自由な愛によるものである。神は無限の力と憐みのうちに、私たちを選び、祝福された。
神が恵みを先に与えてくださる。