序)モーセ
「モーセ」という名は、ヘブライ語の「引き上げる」という意味がある。またエジプト語の動詞「生む」から派生したもの。
旧約聖書のモーセの誕生物語からすれば、水から引き揚げられたもの。
1)モーセの物語
ファラオの命令で「ヘブライ人に男の子が生まれたら殺害せよ」と。
モーセはレビ人を両親として生まれ、生後3か月間隠されていたものの、籠に入れられナイル川の岸の葦の間に捨てられる。
ファラオの娘に拾われ、彼女のもとで育てられた。
成人した後、同胞を迫害するエジプト人を殺し、その露見を恐れ、ミディアン地方に逃れ、ミデイアン人の祭司の娘と結婚する(出2章)。そこで神の顕現に遭遇し、強制労働に苦しむイスラエルの民をエジプトから連れ出すという使命を与えられる(出3~4章)。
シナイ山での神との出会い(出3章)
エジプトに戻ったモーセは、神による多くの奇跡・災いをもってファラオにイスラエルの民の解放を迫り、ついに果たす(出7~12章/10の災い)。
モーセとともに逃げ出した民は、エジプト軍に追跡されるが、海の奇跡により危機一髪で助かる(出14~15章)。「十戒」の映画は感動的。特撮もすぐれている。
砂漠・荒れ野では、食糧や水が乏しく生活条件が厳しい上に、他の遊牧民の集団との争いがある中、民を導いた(16~18章)。人々からの不平、不満。
シナイにおいて、神の到来を経験し、神と民との契約を結び、「十戒」をはじめとする種々の法を神から授与され、民に授けた(出19~40章)。
再び砂漠を通り、約束の地を目指し、カデシュから直接北上して進もうとするが、成功せず、死海の東側の地を通ってヨルダン川を東から西にわたって入ることになる。しかし、モーセ自身は、約束の地を見るだけでそこに入ることなく、「荒れ野の40年」の旅の後、ヨルダン川東岸のネボ山のピスガの頂で120歳の生涯を終える(申34・1~12)
モーセの活動はヨシュアに継承されていく(民27・12~23)。
2)モーセの人物像
モーセはイスラエル人にとって、比類のない預言者。
神は、モーセを通して民を解放し、民と契約を結び、民に律法を啓示する。
新約聖書で、「仲介者」と称されるのは、モーセとイエス・キリストだけ。
仲介者の違いは、モーセはイスラエルの民にだけ律法を与えたが、イエス・キリストは仲介によって全人類を救う。
①神の僕・神の友
モーセの召命
強制労働に苦しむ民の一員として生まれたモーセは、圧制者ファラオの娘の手で水から救われて命拾いしただけでなく、指導者としての職務を果たす準備教育も受ける。
荒れ野で神から召命を受ける。神が彼に現れ、その名と救いの計画とを啓示し、彼の使命を知らせ、これを果たす力を与える。
彼は謙遜のために、重責を担うことをためらう。また自分が率いる民から非難を受けた時も、謙遜を示しながら、自分の務めを果たす。
②民の解放者・契約の仲介者
モーセの任務は、イスラエル民族の解放である。
イスラエル人は海を渡り、その海が追手を波間に飲み込む。こうしてエジプト脱出の第一の目的が達成される。モーセはシナイ山でいけにえをささげ、神と契約を結ぶ。
このように民の「指導者また解放者」(使徒7・35)として遣わされたモーセは、キリストの前表である。
キリストこそ、よりすぐれた契約の仲介者であり、罪から解放する救い主である。
③預言者・立法者・仲介者
モーセは民に向かって神の名において語り、真の預言者であり、神の代弁者。イスラエルに神の律法を告知し、自分の生活にどのように適応させるかを教える。
神に嘆き訴える。「私一人では、とてもこの民すべてを負うことはできません。私には重すぎます」(民11・12,14)。民の不忠実に打ちひしがれ、信仰と柔和を欠き、罰を受ける。
仲介者としての役割を果たす。祈りによってイスラエルの民に敵対する勝利を確保し、民のために罪の許しを得て、神と民との間に立って、神の怒りを和らげる。仲介者の役割を果たす。